ハンニバル(シーズン1)

あまり気乗りはしなかったが、重い腰を上げてドラマのハンニバルシーズン1を見た。全巻を借りて一気に。ネタバレを含むかもしれないから、まだ見てない方、見る予定の方は気をつけてください。










あれを見た人、よく正気を保ちながら見てたよね。私は狂ってしまいたいくらい辛かったよ。グロテスクな死体のオブジェやレクター博士が心臓やら肺やら臓器を捌いているシーンは覚悟をしていたから、そんなに苦痛ではない。生きたまま捌かれるシーンも(少しはあったが)、警戒して見るほどのことでもない。まあ覚悟して観れば、グロが苦手な人も別にそこまで嫌悪感は示さないと思う。死体を加工する理由や殺害する動機は一貫していて『よくわからない』。
問題はウィルの心理描写やら心象風景やら幻想やらだ。
何なのだアレは。ひたすら気分が悪くなる。視聴者はウィルの視点から見ているので、あの世界に飲み込まれる。幻想が幻想とわかるならまだ良い。後半になってくるに連れ、現実と幻想の境目が曖昧になってくるウィル・グレアムにつられ、こちらの視点も現実と幻想の違いがわからなくなってくる。そして、ウィルの気持ちとこちらの気持ちの境目がわからなくなってくるのだ。酔う。これは予想外で私はかなり酔った。ドラマがどんどんこちらとの距離を詰めてくるのだ。勉強不足なので、そういう作品にあまり出会ったことがなく、ドラマに集中しながら見てしまう私にはかなりきついドラマだった。ウィルはまだレクター博士の本性を知らないが、ドラマを見ている視聴者はレクター博士がどういうことをする人間なのか知っている。知っているだけに恐ろしい。それでも博士の得体の知れなさは拭えず、器も測れず、こちらまで飲み込まれていくのを感じてしまう。ウィルはまだレクター博士に飲み込まれていることに気がつかないのだが、こちらはそれを感じながら、ドラマを見ているわけだから、恐怖の度合いってのはずっとずっと高い気もした。
博士は同情や共感が一切許さないサイコパスだ。中身を理解するのは不可能で、高い共感能力を有するウィルはその片鱗に触れて、おかしくなっていく。ウィルを罠にハメた後、博士が泣きながら自分の精神科医にウィルについて語るシーンがある。おそらくあの涙は本物で偽りではないのだろう。もう今更そんなこと、と思うかもしれないが、私はあのシーンで博士のサイコパス具合が本物であることを感じた。
批評なんかはしたくないのだが、これほどまでに緻密で繊細で完成された演出と脚本は本当にすごいと思った。完成されすぎてる。
私は見る前に『こんな特殊な主人公で気味の悪い世界観に共感や同情なんてできるわけがない』とタカをくくっていた。違う。このドラマは共感や同情に至るすべての経路を無視し、一気にドラマハンニバルの世界観に引きずり降ろしてくる。そこで何を感じるかは視聴者次第だが、私はひたすらわけのわからなさからくる気持ち悪さと吐き気に苛まれていた。
考えを整理しながら視聴していくと、やはり『博士とは何者なのか?』という壁にぶつかる。わからない。気持ち悪い。わからない。



怖くて、未だにシーズン2は視聴できていない。